なぜwebMathematicaなのか?


 大学の数学は、高校までの数学と抽象化と厳密性において大きく異なり、理解できない学生が多いというのは、昔から言われてきたことです。しかし、いわゆる「ゆとりの教育」で高校までに学ぶ数学の内容がどんどん削られ、写像の概念も空間図形の方程式も全く知らずに大学に入学してくることになった現在では、旧来の大学初年度の数学の内容をそのまま教えることは不可能となってしまいました。このような現状にもかかわらず、大学の数学教育の現場では旧態依然としたスタイルの授業が行われ続けており、一方、学生も、課題を課されない限り、授業の予習復習を含めて数学を自主的に学習することは全くないという状況となっています。したがって、理系の学生にとっての必須の基礎知識である数学について、ほとんどの学生は概念を理解せず、計算の仕方だけを暗記して進級・卒業していくというのが現状です。

 こういった状況を打開する一つの試みとして、大学における数学の講義を補完する自習支援環境をwebMathematica を用いて作成し、ホームページで公開することにしました。従来、数式処理システムMathematicaを用いて数学の授業にコンピュータを導入するという試みが一部でなされてきました。しかし、Mathematicaは非常に便利で有能な数式処理システムであるため、学生にそのままこれを使わせた場合、Mathematica の組み込み関数を用いてコンピュータに計算させるだけになってしまい、概念を理解させるという目的からはかえって遠ざかってしまうという欠点がありました。

webMathematica では、使えるコマンドをweb上で限定して提供できるため、題材に応じて適切なコマンドを必要な分だけ学生に与え、計算の背後にある概念や法則を見通しやすいような教材を作成することが可能となっています。また、フォームを利用してパラメータだけを入力させる形にしてMathematicaコマンド自体は隠すことができるため、学生はMathematica独特のコマンド記法などを習得する必要がない、ということも利点の一つです。こうしたwebMathematicaの利点を生かせば、教える側の意図に従ってパラメータを学生に取り換えさせて結果を表示・描画させることによって、現象の背後にある理屈を推測・検証させるといった「仮説検証型教材」を作成することが可能となります。数学の概念理解には、学生が能動的に勉強することが必須の条件です。自主学習を支援するための、学生が自分で試行錯誤しながら自分で考えていく「仮説検証型教材」は、授業・演習用教材と有機的に組み合わせることによって、真に有効な大学初年度の数学教育システムとして機能することが期待されます。
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