<文字がないっ!>

 パソコンを使って文章を作成していて、使いたい文字が出せなかった経験はありませんか?そのような状況に陥ったときにみなさんはどうされますか?使いたい文字を出せない原因は幾つか考えられます。単にパソコンの操作方法が分からなかっただけだったということもあるでしょう。でも私たちがここで問題にしたいのは、もっと深刻な原因の場合です。すなわち、パソコンの中に始めから使いたい文字が用意されていない場合です。

 色んな仕事をこなしてくれて、とても便利で一見賢そうに見えるコンピュータですが、所詮は0と1しか認識できないただの機械です。ですからコンピュータの中では0と1の並び方によって文字を表します。これが一桁だけだと2種類の文字しか表せませんが8桁あれば2の8乗ですから256種類の文字が表せます。これならアルファベットの大文字と小文字、数字を合わせても62種類、更にピリオドやクエスチョンマークなどの記号類を加え、フランス語やドイツ語などの他の欧米の言語を表すのに必要な文字や記号を加えても256種類以下で収まりますから、欧文を書くことだけを考えれば8桁の0と1の列で必要な文字はすべて表すことができるのです。

 でもアメリカやヨーロッパだけで世界が成り立っているわけではありません。漢字を始め、世界では多種多様な文字が使われ、それぞれの文字を使っている民族や国家の文化を担っています。そこで、コンピュータでより多くの文字を扱えるように16桁の0と1の列を使って文字を表すようにしました。これなら2の16乗種類、すなわち65536種類の文字が扱えますから、私たちが日常「ほぼ」困らない程度の種類の漢字が扱えることになります。しかし、問題は漢字の種類はこの数よりもはるかに多いことです。例えば、「パソコンで出せない漢字」や「草 パソコンで出せない漢字 剛」という名前の人は、自分の名前を「通常の」パソコンでは出すことはできません。このように私たち日本人がコンピュータで自由に漢字を扱えないなんて、おかしなことだと思いませんか?

 今回の公開セミナーでは、まずパソコンを始めとする電子機器の内部ではどのように文字が取り扱われているかを向内氏に解説してもらいます。続いて坂村氏に現在のコンピュータにおける文字の取扱いに関する諸問題および、その解決を目標の一つに掲げているトロンプロジェクトの取り組みについて語ってもらいます。次に村上氏に自らの研究にパソコンを利用しているユーザーとしての立場から、研究にコンピュータを活用する上での苦労したこと, 我慢してきたことなどの経験談を話してもらいます。最後のフリートークでは講演者への質疑応答や、講演者を含む参加者の方々に、文字とコンピュータの周辺で、自由に夢や希望を語り合ってもらいます。

 昨今、「IT革命」と声高に叫ばれて、コンピュータが労働の効率化や、お金儲けするための道具として語られることが多く、確かにコンピュータにはそのような一面もあるのですが、ここではコンピュータが私たちの文化の一部を担ってくれるパートナーになるためにはどうあるべきかについて考えてみたいと思います。

文責 山口 睦(やまぐち あつし)
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